奇想の作家「夢野久作」と福岡・博多まち巡り

奇想の作家「夢野久作」と福岡・博多まち巡り

ごきげんよう よしだです。

今回は福岡が生んだ奇想の作家、夢野久作についてご紹介したいと思います。
(ここですでに「え、誰それ?」って声が聞こえてきそうな感じです…。)

今回のブログ、文学や久作に興味のない人にとっては全く面白くないであろう大変ニッチな内容になっている感が否めませんが、どうぞ宜しくお付き合いくださいませ。

【夢野久作とは】

まず彼をご存じない方のために軽くご説明すると、こういう人物です。

夢野久作・・・本名 杉山泰道
1889~1936(明治22年1月4日~昭和11年3月11日)

幻想小説家・探偵小説家。他にも陸軍少尉・禅僧・能の師範・農園経営者・新聞記者など様々な肩書を持つ。生涯の大半を福岡で過ごし、福岡で執筆活動を行った。
代表作は日本三大奇書の一つで構想・執筆に10年を費やした「ドグラ・マグラ」、他に「少女地獄」「犬神博士」「あやかしの鼓」など。

参照:wikipedia「夢野久作」

さて、今回彼を取り上げようと思った理由のひとつが「福岡で生まれ、福岡を題材にした作品を多数残した作家なのに、地元民には驚くほど知られていない!」という点です。

ここで、インターネット図書館 青空文庫 の2014年度アクセスランキングベスト5をご覧頂きたいと思います。
http://www.aozora.gr.jp/access_ranking/2014_xhtml.html

1位 「こころ」夏目 漱石 205548
2位 「雨ニモマケズ」宮沢 賢治 179672
3位 「走れメロス」太宰 治 146161
4位 「吾輩は猫である」夏目 漱石 107807
5位 「ドグラ・マグラ」夢野 久作 103555

名だたる名作が並んでいるのは流石という感じですが、久作の作品も5位に入っていますね。彼の作品は現代でもこれだけ多くの人に読まれているということです。

このランキング内で、活躍年代も近く地方で執筆を続けた作家として比較したいのが宮沢賢治です。宮沢賢治といえば、多くの人がその名と共に岩手県の花巻を思い浮かべるし、花巻市民の大多数も地元が生んだ著名な作家として彼を知っていることでしょう。

しかし、夢野久作の場合は状況が全く異なります。なぜか福岡ではほとんど彼の名が知られていないのです。

福岡市民で久作ファンである私としては、これは非常に勿体ないことだと常々悲しく感じています。「久作の作品は地元民にこそ読まれるべき」と思っているからです。

先述の通り久作作品には福岡の地名や方言が頻出します。

話の中に私達が常日頃なじんでいるもの、知ってる場所がたくさん出てくるので、一層親しみが感じられるし、作品に触れることで、それらが書かれた大正~昭和初期、さらに遡った古い時代の福岡・博多について新たな発見や驚きもあるのです。

そこで今回は、久作の作品に登場する場所や地名を「フィクション編」としてマップにまとめてみたいと思います。

よく知っているはずの場所も、物語や歴史を通して見てみると、また新たな表情を発見できるかもしれません。

【夢野久作マップ フィクション編】

【A】九州大学医学部

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「ドグラ・マグラ」の舞台、九州帝国大学医学部精神科病棟・狂人の解放治療場の所在地とされる場所です。

主人公の「わたし」は、精神病棟7号室で「ブウウ――――――ンンン」と鳴るボンボン時計の音で目を覚まします。

” 御覧の通り九大の構内と構外とは一面に、一続きの松原の緑に埋められておりますが、… ”

もともと海岸に近い場所だったこともあり、当時このあたりは白い砂地に松原が広がっていたようです。

現在九州大学は伊都キャンパスにほぼ移転を完了していますが、医学部は東区馬出にあり同敷地内には大学院・研究院・九大病院があります。 今も残る重厚な古い石造りの正門がかつての面影をしのばせます。

【B】筥崎宮

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「犬神博士」で、主人公のキチガイ博士が掘っ立て小屋を建てて住んでいるのが筥崎宮の境内です。

また「山羊髯編輯長」の主人公、新聞記者の羽束も参拝する場所です。

” 思ったよりも立派な神社なので、思わず神前にシャッポを脱いで一銭を奮発した。”

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(鳩除けのネットが張ってあるけどね)

後述の櫛田神社も長い歴史がありますが、こちらの筥崎宮も平安時代頃に端を発する古い神社です。元寇の折には筥崎宮一帯も炎上し、現存の楼門や本殿は室町時代に造られたとされます。(国の重要文化財にも指定されています。)神社の縁起・詳細な歴史は筥崎宮公式HPも御覧ください。

久作はこの筥崎宮の氏子でもあったそうです。

【C】箱崎浜・箱崎水族館

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筥崎宮からのびる長い参道はまっすぐ海まで続いています。

鳥居の奥に見えているのは福岡都市高速道路です。現在の福岡市の海岸は大規模な埋め立てが行われているので、昔の海岸線はもっと内陸側にあったと考えられます。

「ドグラ・マグラ」の斎藤教授、そして正木教授の溺死体が発見されるのが”箱崎水族館裏手の海岸”です。

なんと昔は箱崎に水族館があったのですね。鉄筋2階建、九州初の本格的水族館ということでなかなか立派なものだったようです。

当時の水族館は昭和10年に閉館、その後筥崎宮参道に移転し昭和40年代まで存在した模様です。

ちなみに現在、箱崎には「箱崎水族館喫茶室」という喫茶店があります。お店の名前がかつてあったこの水族館に由来するそうです。

【D】箱崎駅周辺

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「空を飛ぶパラソル」冒頭で、鉄道人身事故が起こるのが箱崎駅の近辺です。

“工学部の正門前は、広い道路を隔てて、二三里の南に在る若杉山の麓まで、一面の水田になっていて、はてしもなく漲り輝く濁水の中に、田植笠が数限りなく散らばっている。”

「工学部の正門」は現在の九大箱崎キャンパスとほぼ位置は変わっていないと思われます。

現在はあたり一帯が市街地になっていますが、当時は見渡す限り水田が広がっていたようですね。

“…と見るうちに、左手の地蔵松原の向うから、多々羅川の鉄橋を渡って、右手の筥崎駅へ、一直線に驀進して来る下り列車の音が、轟々と近づいて来る気はいである。”

”地蔵松原”は、現在の地蔵松原公園(東区筥松)付近でしょうか。松原と呼べる程の松は今は見当たりませんが、この付近には元寇の防塁跡も残っています。

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現在の箱崎駅は高架化されていますが、それ以前は場所も現在とは異なり、筥崎宮のちょうど裏手にあったそうです。

【E】呉服町交差点

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博多駅へと続く大博通りと、県庁方面から中洲・天神方面へ続く明治通りが交差する場所です。

「山羊髯編輯長」を読むと、当時このあたりを路面電車が走っていたようです。この路面電車には福岡市内循環路線もあり非常に便利だった模様で、昭和54年まで利用されていました。

呉服町交差点のちょうど真下には福岡市営地下鉄の呉服町駅があります。現在の地下鉄姪浜線や貝塚線は、かつてあった路面電車の軌道をなぞるように作られている個所も多いみたいですね。

【F】櫛田神社

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「押絵の奇蹟」で、物語の核となる押絵が奉納されるのが博多の総鎮守、櫛田神社です。その始まりは奈良時代頃からという大変歴史ある神社です。

お社の中を見る限り、押絵らしきものは存在を確認することは出来ませんでした…。(まぁそもそもがフィクションですからね。)
が、境内には樹齢1000年の銀杏、飾り山笠、力石など色々見どころがあります。

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正門内で真上を見上げると干支の恵方盤が見れます。矢印はその年の恵方を指しているそうです。

【G】川端飢人地蔵尊

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飢人地蔵は江戸享保年間に起こった大飢饉の犠牲者を弔うため建立されました。

お堂の中にある縁起文を読むと、当時の博多の人口(約19,000人)の3分の1にあたる約6,000人もの人が亡くなる酷い飢饉だったそうです。地蔵尊は約280年経つ今も地元の人に大切に祀られています。

「押絵の奇蹟」の主人公 トシ子の生家があったのが水車橋の袂、飢人地蔵のすぐ横です。現在お堂の隣にはワシントンホテルプラザが建っています。

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水車橋も残っています。写真右手奥に見える水色の屋根はキャナルシティへ続く高架歩道です。

”尤も今から二十年ほど前に私たちが居りました頃の東中洲は、只今のように繁華な処でなく、ずっと西北の海岸際ぎわと、南の端の川が二つに別れている近くに一並び宛ずつしか家がありませんでしたので、私たちの家だけは、いつもその中間の博多側の川ぶちに、菜種の花や、カボチャの花や、青い麦なぞに取り囲まれた一軒家になっておりました”

今でこそ九州一の歓楽街と言われる中洲近辺ですが、かつては人家すらまばらな場所だったようです。

【H】水鏡天満宮

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「少女地獄」の第三話、「火星の女」に出てくる”天神の森”は、この水鏡天満宮付近だったと思われます。

その昔 大宰府に左遷される途中の菅原道真が自分の姿を水面に映した場所にちなみ、現在の今泉付近に建造されたのが始まりだそうです。
その後初代福岡藩主黒田長政に現在の場所に移されて今に至ります。福岡市天神の地名もこの神社に由来するそうです。

現在は周囲を道路やビルで囲まれ、かつてあったであろう森は見る影もありませんが、一歩境内に入ると、街なかにあるとは思えないような静かな空気に満ちています。

マップをまとめて

この他にも「ドグラ・マグラ」第二の殺人事件の舞台となった姪浜や、「少女地獄」第ニ話「殺人リレー」で衝突事故が発生する香椎の踏切など、取り上げたい場所がいろいろあったのですが、今回はできるだけ実存の場所が特定できる個所に絞ってご紹介しました。

久作ファンの方は本を片手にゆかりの地を巡ると一層作品が楽しめるでしょうし、久作をご存じなかった方も、もしこの記事を読んで興味を持っていただけたら是非作品にも触れていただけるとうれしいです。

マップをまとめながら改めて感じたのは、福岡・博多には長い歴史があって、その遺物が今もたくさん残っていること、独特な魅力を持つ久作の作品にはこういった文化や風土が大きく影響しているのだなということです。

色々調べているうちに、私も何だか古い時代の福岡に興味がでてきたので、今度は古書店で昔の市内の地図を探してみようかと思っています。

上記で紹介した夢野久作の主要作品は、青空文庫で無料で読むことができます。

【青空文庫 作家別作品リスト:夢野 久作】
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person96.html

Kindle等の電子書籍端末をお持ちの場合はPCで閲覧するよりそちらを使うほうが読みやすいですね。 「ドグラ・マグラ」でさえネットで手軽に読めるようになるとは、素晴らしい時代になったものです。あの大長編をHTML化されたボランティアの方のご苦労を思うと本当に頭が下がる思いがします。

【最後にお知らせ】
「夢野久作と杉山三代研究会」が3月28日・29日に開催されます

「夢野久作と杉山三代研究会」は2013年より毎年1回、筑紫野市で開催されている研究発表会です。

久作とその作品については勿論ですが、明治政界の黒幕的存在だった父 杉山茂丸、久作の長男でインド緑化事業に生涯を捧げた杉山龍丸など、杉山一族についても幅広い研究発表が行われます。

夢野久作・杉山一族にご興味のある方ならどなたでも参加できます。

詳しくは公式facebookページをご覧ください。

夢野久作と杉山三代研究会 公式facebook
https://www.facebook.com/kyuusakudoguramagura

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